椎間板ヘルニア手術 その2

麻酔から覚めて起こされたときも、寝台に仰向けだった。
腰のあたりに手術直後の重苦しい鈍痛があるが、痛いというほどではない。
酸素マスクを着けて ICU に運ばれる。時計がちらっと目に入ったが、午後1時前くらいだっただろうか。
嫁が部屋に入ってきて、その後に執刀医師が来られたように思う。
摘出したヘルニアが小さなガラス瓶に入ったものを見せていただいた。
赤みがかったもろもろしたようなものが透明の液体に浸っていた。想像していたよりも量が多かった。
ヘルニアそのものはあまりひどくないということで、手術前の医師の話でも、これくらいのヘルニアであれば摘出しても効果がどれくらいあるか・・・というような言葉を洩らされていたので、指先ひとつまみ程度かと思っていたのだが、ざっと小さじ一杯分くらいはあったように思えた。
そして、これほど摘出されたのであればそれなりの効果が期待できるのではないかという考えが浮かんで、少し期待感が大きくなった。
今回の手術でいちばん大変なのは、実はこれから明朝までの約半日間である。この間は自力で寝返りをうつことができない。姿勢を変えるたびに看護師の助けを得なければならないのだ。
その理由は、腰椎の手術をした直後なので、そのあたりに力が入ってはいけないということと、術部からの出血を出すための細い管が切開したところから出ていて、この管が押されてつまったりするとまずいので、体位を変えるたびに確認してもらわなくてはならない。
翌朝に血液検査とレントゲンを撮って、問題がなければそこでコルセットを着用して、拘束体勢から解放される。ただし腰からの管はまだ出たままなのだが。
ICU にいるうちはまだ良かった。手術直後ということもあって看護師が頻繁に様子を見に来てくれるので、そのたびに気軽に体位変更をしてもらうことができた。
ICU に入っていたのは3時間くらいだろうか。いよいよ部屋に戻ることになった。
これから翌朝までは、体位変更をしたければそのたびにナースコールで来てもらわなければならない。もちろん呼べばすぐに来てくれるのだが、いくらそれが看護師の仕事とは言っても私の専属ではないし、看護師の仕事の忙しさは間近に見ていてよくわかっているので、こちらも遠慮してしまう。
単に寝返りがうてないだけではなく、足もあまり動かせないので、体勢を変えてもらってもすぐに凝ってくる。
今日は夕食は抜きだろうと思っていたら、食べたければ用意してくれるとのこと。お腹がすいていたというわけではないが、それならということで用意してもらうことにした。
しかしベッドに完全に横たわった姿勢で食事を取るのは大変だった。食器をのせたお盆をおく台をベッドのすぐ横に置いて、見やすい高さに調整してもらって、フォークで食べた。
さすがにこの体勢ではきれいに平らげるというわけにはいかなかったが、8割くらいは食べられた。他に何か集中できることがあった方が、身体のコリが気分的にまぎらわされて良かった。
体位変更は、身体の下に敷いたバスタオルの両端を二人の看護師さんが持ち上げて身体全体を横に移動させて、それから腰のあたりを持って身体を半回転させるようにしていただく。つまり必ず二人必要なのだ。
たまたま昨日のニュースで、どこやらの病院で、夜勤の看護師がみんな同時に仮眠を取っていて、患者の異変に気付かず死亡に至ったということが伝えられていたが、ちょっと信じられない気持ちだった。
私はこれまで親の病気での看護や、自分自身の入院などで、病院で夜を過ごしたことは何度もあるが、看護師の献身的な仕事ぶりはいつも敬意を表するくらいで、そんなひどいのは見たことが無い。単に運が良かっただけなのだろうか。
とは言え、看護師さんも人間なので、ちょっとしたミスをされることはある。
夜中に体位変更で横向きにしてもらった。横向きになると、背中の部分に大きなやや堅めのマットをあてがわれて、それにもたれるようにする。これは全身くらいの長さがある。
看護師さんが戻られてからふと気付いたら、ナースコール用のボタンが身体の後ろ側に置いたままになっているようなのだ。後ろを見ることなんて到底不可能だし、腕を回そうにもマットがじゃまになってまったく届かない。
様子を見にきてくれるまで何とか耐えようと思ったが、いよいよ我慢の限界に近づいてきた。どうやったら身体をずらすことができるか、必死で考えた。
結局、腰をわずかに浮かせて加重を軽くして、その部分のタオルを動かすと同時に腰もずらせて、それを何度か繰り返して身体を上の方向にずらせて、肩のあたりが背中のマットの端から少し出るくらいの位置まで動いて、ようやくナースコールのボタンを押すことができた。ほっとした。
やってきた看護師さんは、私が大きくずれた場所にいるのを見て、ちょっと驚かれたようだった。
その後も何度か体位変更をしていただいて、ようやく朝になってきた。おそらく 10 回以上は体位変更していただいたと思う。

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