弘法大師の道 プロローグ

この1年ほど、ずっと頭にあったのは「弘法大師の道」。

トレランのレースはここ何年か開催されているけれど、もはやレースを走れるだけの力は無いし、気力も無い。

何とか一人で行けないものかとコースの一部試走したりしてきた。

何と言っても、コース上で水を補給できないというのが一番のネックで、レースでなければほぼ全行程分の水分を自分で持つ必要がある。となるとテント泊は難しい。

走力のある人なら早朝に出てその日のうちに帰ってくるということも不可能ではないけれど、私にはまったく不可能。やるとしたら夜発の夜間走だ。昔、これでダイトレ全コースをやったことがある。

吉野を夜に出て、試走したことのあるコースを通って、小南峠あたりで夜が明けると未知の部分は日中走となる。これで15〜16時間というのが漠然と考えた戦略だった。

今年のレースは5月18日。やるならこの前後だとコースマークも充実しているはずで、夜明けもそこそこ早い。

実は先日、氷ノ山へ行った時、前日の午後まで、これを実行するつもりで準備していた。

しかし直前になって、レースに参加した人の記録がいくつか入手できたので、それと自分の試走のタイムを比較してみたところ、考えていた戦略はほぼ不可能ということがわかった。うまくいっても18時間くらいはかかりそうだ。

そんな長時間行動はもう二年半前のキャノンボール以来やっていない。おまけにここ二年ほどは練習の量も質も大きく低下している。

冷静に考えて、「弘法大師の道」はもうムリだと思った。

そこでこの週末は中辺路の続きをやろうと思った。

しかし前日になって、やはりここで「弘法大師の道」にチャレンジしておかないとこの先ずっと後悔するのではないかという気持ちが湧いてきた。

今度は迷いは無かった。出発時間を3時間ほど早めることにして、18時間行動を覚悟して行くことにした。問題は、本当に18時間行動できるかということ。

このコースはリタイアできる場所が少ないというのも難点で、さほど時間をかけずに公共交通機関のある場所に出られるのは二箇所しか無い。

一つは小南峠から洞川温泉。しかしここはまだまだ序盤で、ケガなどのアクシデントでも無い限りはここに下りることはまず無い。

もう一つはコースの3分の2くらいの場所にある天辻峠。ここは30分もかからずにR168に下りられて、大和八木行きのバスに乗ることができる。ただし1日3本。このバスの時刻を調べておくことにした。

この週末はかなりの高温予報だったので、中辺路よりもこちらの方がマシとも思った。

水分は、ポカリと水とお茶をそれぞれ500mlずつ。そして別に2Lの水を持って、粉末ポカリと粉末茶を用意した。また、ゼリー飲料も2つ持った。

さすがにずっしりと重い。7kgくらいになった。これでは走れないのではないかと不安になったが、もう行くしかない。