利尻山

私は気に入った山に出会うと季節やルートを変えて何度も行きたいという指向で、ピークハントのようなことにはあまり興味が無い。百名山にはまったく興味が無いし、いくつ登ったのかも知らない。

新しい山に出会う機会はたまたま美しい写真を見たり、誰かの記録で興味を持ったりということが多い。

利尻山はもう何十年も前に写真で出会った。海から突き上げる美しい山容に強く魅せられたのを今も覚えている。

しかしその頃の感覚では北海道すら最果ての地で、ましてや利尻島など私にとっては現実的ではなかった。

今年になってようやく北海道山スキーデビューを果たして、無雪期にもう一度北海道へと思って、まずは利尻山へ行かなければならないという義務感のようなものが湧いた。

そしてついにその日がやってきた。今日は7月18日の日曜日。

夜はほとんど寝られず、4時に起床した。幸い、強風は収まっていた。

いつも通りのカップ麺、おにぎり、コーヒーで朝食をとって、5時前にテントを出た。利尻山は山頂までしっかり見えている。

しばらく車道をゆるく登ってから山道に入る。

あまり歩かれていない感じ。

5時38分、上のキャンプ場からの道に合流した。ここが3合目。キャンプ場まで車で来て、ここから登りだす人が大半である。甘露泉水はどこにあるのかわからなかった。

快晴の日曜日なのに登山者にぜんぜん出会わなくてラッキーと思っていたが、4合目のあたりからどんどん出会うようになってきた。

5合目や展望台は人だらけで黙々と通過するのみ。標高 1700m を超える山だというのに5合目の標高はわずか 610m。

体調は悪くない。5月末の腰痛が長引いて、本格的な登山は4月末の針ノ木岳以来で、不安は少なくなかった。

塩飴をなめながらノンストップでひたすら登る。ようやく調子が出てきた感じ。

前方が開けて長官山が見えた。

鴛泊のあたりを見下ろす。

セイヨウノコギリソウ。

たまにある展望場所は人がたくさんいるので、写真を撮るだけで通過する。

7時半に長官山(1218.7m)に到着した。

ここから若干のアップダウン。アキノキリンソウ。

長官山から 10 分ほどで避難小屋まで来た。小屋の前のベンチで休んでいる人たちが何人かいた。

ようやく山頂が近づいてきた感じがする。

イブキトラノオ。

ヤマブキショウマ。

8時1分、9合目までたどり着いたが、標高差でまだあと 300m ある。

利尻山は眺めればわかる通り、上に行くにしたがって傾斜が急になってくる。そして火山なので足元も富士山のような溶岩の固まった石がゴロゴロ出てくる。

沓形ルートとの合流地点。

道が崩れやすいせいだろう、いろいろと補強されている。

イワギキョウ。

ローソク岩。

あと一息。

8時 36 分、念願の利尻山の山頂(1719m)に到着した。9合目を過ぎてからは下山者と一人すれ違っただけで誰も見かけなかったので、山頂は一人きりかと思っていたら、ちょうど下山しようとされている人に山頂で出会って、お互いに写真を撮りあった。

鴛泊方面。

礼文島は雲に隠れていた。

さて、ここまで来たら真の最高峰の南峰へ行かなければならない。しかしながらロープが張られていて通行禁止になっている。

幸い山頂には他に誰もいない。行くしかないだろう。

崩れやすい斜面を少し下って、小ピークに行く。前のピークが南峰だろう。

しかしこの先がガケになっている。横の斜面をトラバースできないかと廻りこんでみたが崩れやすい急斜面で、とても行く気になれない。それにその先も踏み跡は無さそう。

元々崩れやすい地質と、もう何年も通行禁止になっているので、かつては行けたという道が消滅してしまったのだろう。諦めるしかない。

山頂に戻ったら何人かの登山者がやってきた。入れ替わりに私は下山する。

9合目の平らな場所で今日初めて腰を下ろしておにぎり休憩にした。

さらに下って行ったら礼文島が見えた。

あとはひたすら下るだけ。登山道には何箇所かこういうトイレブースが設置されていて、携帯トイレを持参してここで用を足すように指示されている。

下るに従って暑くなってきた。とても利尻山の気温とは思えない。

甘露泉水は上のキャンプ場への道を少し入ったところにあった。

岩の間から流れ出していた。駐車場から近いせいか、何人もの人がやってきていた。

この水で顔を洗って、ガブ飲みして、そばにあった東屋でしばし休憩した。私がテントを張ったキャンプ場は標高 50m なので、山頂までは標高差 1660m。さすがに疲れた。

キャンプ場に戻ってきたのは 12 時 18 分だった。案の定、テントはサウナ状態になっていた。

一息ついたら管理棟へ行ってテント泊の申し込みをしようとしたところ、受け付けは午後2時からとのこと。ここでペットボトルのコーラを 150 円で売っていたので、これをもらってきた。本当においしかった。

さて、キャンプ場の向かいにある利尻富士温泉に行こう。

露天も水風呂もあってたったの 500 円。ただし水風呂は強烈に冷たくて、とても浸かっていられなかった。

このあたりの土地柄なのだろうか、脱衣場も休憩室もクーラーが入っていないのでせっかく温泉に入ったのに汗がしたたってくる。

しばし休憩してフェリーターミナルの方へ向かう。あの頂まで行ったのだと思うとえも言えぬ感慨が湧いてくる。

まずはフェリーターミナルの観光案内所でプレミアムチケットを購入する。これはちょうど私が利尻島へ着いた直前から始まったもので、観光客限定で 500 円券が7枚セットになったチケットが 2500 円で買える。最大 10 セットまでだが購入できるのは1回のみ。追加購入はできない。利用できる場所を確認して4セット買った。

明日は自転車で利尻島を一周しようと思うので、レンタサイクルの店に行ってみる。予約はできないとのことで、開店の8時に行くことにする。

まだ5時前だがこのあたりの店は閉まるのが早いので、夕食を食べておくことにする。フェリーターミナルの向かいにチケットの使える店が2軒ある。

海鮮ラーメンが食べたかったのだが、いずれの店もすでに売り切れとのこと。ウニやイクラはにぎりなら食べるけど、丼で大量に食べたいとは思わない。以前に食べた時に途中でうんざりしてきた印象がある。

まさか利尻島まで来てカレーや焼肉定食を食べたいとは思わないので、もはや選択肢が無いのでホタテ丼にビールということにした。おいしかったがもう十分という感じ。食べたいものが食べられなかった失望感の方が若干強かった。

セイコーマートに寄って翌日の行動食を買ってキャンプ場に戻ったところ、何とすぐそばにテントが張られている。こんなに広いスペースがあって、空いている場所もたくさんあるのに何故わざわざこんなそばに張るのだろうか。しかも二人連れ。

一人ならまだしも二人だと間違い無く話し声が聞こえてくる。とても我慢できないと思ったので、離れた場所の空きスペースに引っ越した。せっかく張ったテントを撤収して張り直すのは面倒だが、気持ちよく夜を過ごすためには致し方ない。

利尻山は長年の夢で、今回の遠征はほぼそのために計画したものだった。天候を見計らって実行日を決めようと思っていたのだが、思いがけず初日に絶好のコンディションで登頂することができた。不安だった体調も結果的には問題無かった。

これでもう今回の目的は8割がた達成したようなもので、おかげでこの後は余裕をもって行動できるようになった。

あまりにもスムーズにいって、多少拍子抜けのような気持ちも無いわけではないが、明日は自転車で利尻島を一周してみようと思う。

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