夜は薄いシュラフに入ってちょうどいいくらいの気温で、熟睡することができた。
昨夜もそうだったのだけれど、深夜にシカがテントのすぐそばまでやってきて、鳴き声を上げてしばらく様子を窺っていた。シカなので襲ってくるようなことは無いと思うけれど、あまり気持ちのいいものではない。
昨日よりは少し早く、5時25分に出発した。今日も暑くなりそうだ。しかし2本ずつ持ってきたビールと日本酒、そして食料もほとんど無くなって、背中は軽い。
しばらく舗装道路を歩いて、石段を上がって御在所山山頂(1209.4m)へ。
しかし真の最高地点はここから少し先に見える所にある。
当然、こちらにも立ち寄る(1212m)。
西側にはこれから向かう雨乞岳。
武平峠へは下らずに、主稜線から南西に下る不明瞭な道を目指す。この道は長者池のそばから出ているので、まずは長者池へ。
池のそばの木に古いテープが巻かれていたので、これが目印かと思ってその方向に入ってみたけれど、すぐに道は無くなった。それにこの方向は沢筋で、目指す道は尾根筋のはずなので、ヤブの斜面を適当に尾根に向かって上がったところ、御岳大権現(おんたけだいごんげん)に出た。ここには木曽の御岳権現の分霊が祀られているらしい。
ここの裏あたりに道があるはずと思って背後に出たところ、テープマークを発見。この道が見つけられるかどうか心配だったのだけれど、これで一安心。その後はテープマークに導かれてのんびりと下って行った。
30分ほどで武平峠の下から東雨乞岳に向かう道に合流した。ここから東雨乞岳へはなかなかタフな登りが続いた。歩く人が少なそうで、踏み跡も所々不明瞭な部分がある。1時間15分くらいでようやく開けた稜線部分に出て、雨乞岳が見えた。
7時54分に東雨乞岳(1225m)に到着した。
雨乞岳(1237.7m)には8時5分に到着した。鈴鹿山脈2番目の標高の山で、今回の最高峰。個人的にも初めてだ。
東側には昨夜を過ごした御在所山。右の突起は鎌ヶ岳。
これから先が今日のふたつめの不安ポイント。綿向山まで不明瞭な破線ルートになっている。大峠への道標に従ってヤブ原に突入したが、それはそれはとんでもない状態だった。地面には数十センチ程度のヤブが苅られた道があるとは言うものの、背丈くらいの濃いヤブに覆われていてどこが道なのか目ではまったくわからない。
ヤブをかき分けて足元の道を確認しながら一歩一歩進むという感じで、いったいいつまでこれが続くのだろうかと不安になる。
しかしこんなに濃いのはほんの数分程度で、ほどなくうっすらと道が判断できるくらいの丈になった。
またこんなヤブが出てこないことを祈りながら足を進めたが、このあたりは展望の開けた気持ちいい稜線歩きだった。ただし暑い!!
そして清水頭に到着。
このあとは次第に樹林帯に入って、最後は一気に下って大峠に出た。ここが雨乞岳と綿向山の間の峠。
綿向山への登りの道はよくわからなかったが、方向を見定めてしばらく登ると古いテープが出てきた。
次第に傾斜がきつくなって、木の根などをつかまないと上がれないくらいの斜面が続く。さらに稜線の左側はこんな斜面。
稜線の少し右側の斜面を這うようにテープマークがあったけれど、あるところで先のテープが見えなくなった。踏み跡もわからない。直登は難しそうに見えたのでトラバース気味に進んでみたけれど、どうにもおかしい。また戻ってそのあたりをうろうろしてみたけれど踏み跡は不明。先ほどのトラバースをさらに進んでみたところ、斜面が崩壊してとても進めない場所に出てしまった。
これは困った。ルート的に、安全な場所に戻るとしたら雨乞岳まで戻らなければならない。大峠からは簡単に下れる道が無い。雨乞岳まで戻っても公共交通機関があるのは一番近くて三重県側の湯ノ山温泉。そこまで行くとしたら5時間くらいかかるだろう。何が何でも前に進むしかない。写真を撮る余裕などまったく無い。
gps のルートからはさほどはずれていないので、また戻って急斜面を這いずり上がって稜線に向かって進んだところ、踏み跡に合流できた。胸をなで下ろした。
ほどなくイハイガ岳(964.1m)に到着した。立派な標識が場違いな感じ。
ここから先は穏やかな稜線になった。暑さは厳しかったけれどこれで最後の山場を越えたという感じがして、気分的に余裕が出てきた。
遙か彼方に見えた綿向山も指呼の距離に近づいてきた。左奥が綿向山。
竜王山への分岐に出て、もうあと一息。
ブナの珍変木。気持ちに余裕が出てきたのでくぐっておいた。
綿向山の山頂はすぐそこ。滅多に無い心の高ぶりを感じた。
11時18分、綿向山の山頂(1110m)に到着した。
東側の奥に見えるのは御在所山かと思ったら実は雨乞岳だった。御在所は雨乞の後ろに隠れている(雨乞の方が標高が高いため)。あそこから3時間少々で来たというのは自分でもちょっと意外な感じがした。
気分的にはもう終わった感じだけれど、ここは標高 1000m 超なので、まだたっぷり下りが残っている。しかし道はしっかりしているはずなので不安は無い。
少し下った所に金明水。がぶ飲みして、ボトルを満タンにした。
緩い傾斜のつづら折れが続く。こういう道は気持ちが緩むので意識的に気を引き締める。
行者コバでは消防隊員が訓練をやっていた。祝日だと言うのにご苦労様です。
うんざりする単調な道を1時間10分ほど下って、登山道末端のヒミズ谷出合小屋まで来た。
しかしまだ車道がたっぷり残っている。下界に下りてきたので気温はさらに高い。御幸橋では河原で水遊びをしている家族連れが何組かあった。
昼下がりの炎天下の車道歩きは苦行以外の何物でも無い。平日は一日何本かのコミュニティバスが運行されているけれど、休日は歩くしかない。体力的にはこの3日間の中で一番苦しかった。
近江鉄道バスの北畑口に着いたのは1時36分だった。3日間の鈴鹿縦走が完成した。感無量だった。
ここから近江八幡駅へのバスは1時間に1本ある。次は2時24分。待合室の陰で濡れタオルで身体を拭いて着替えて、自動販売機でコーラを買ってカロリーメイトで小腹を満たせた。
昨年の小辺路で久しぶりに山中1泊をやったけれど、山中2泊というのは本当に久しぶりだった。山スキーで麓にベースキャンプのような形でテントを張って複数日過ごしたことはあったけれど、テントを背負って次のテント地まで歩くというのはいつ以来か思い出せないくらいだ。
それにも増して今回、大きな満足感が得られた要因は、この酷暑で最後まで歩き通したこと。
私は昔から暑さが苦手で、若い頃は夏になると食欲が落ちて体重を減らしていた。とは言ってもその頃は暑いと言ってもせいぜい33度くらいで、今のような酷暑ではなかった。アルプスなどの涼しい高山に行っても食欲が出ず、まともに歩けずに下りてきたこともある。
今回、途中敗退にならずに済んだ原因は、途中下山後の交通機関の不便さが最大の歯止めになったのだけれど、それにしても何とか最後まで歩ききる気力と体力があったということは素直に喜びたいと思う。
ただし歩くスピードは期待したほどでは無かった。今回は暑さの影響があるにせよ、昨秋の黒部五郎や今春の乗鞍などにしても、おおむね標準コースタイム10時間くらいのコースを8時間くらいで歩くというのが一日の行動の基準という感じがする。
次に泊まりで行けるのは秋になりそうだけれど、このあたりを基準にコース設定しようと思う。