白山大汝峰

このところ山へ行く回数は多いけれど、ほとんどすべて数百メートルからせいぜい千メートルくらいの山ばかりなので、そろそろ登り応えのあるスケールの山へ行きたいという気持ちが湧いてきた。
時期的に、以前から考えていた南アルプス南部の聖岳光岳トライアングルにトライするタイミングかなと思って情報を収集していたら、何と易老渡へ行く林道が昨秋に崩れて通行止め。開通は来年以降とのことで、これは諦めるしかなかった。
と言うことで、次に浮かんだのはこれも以前から漠然とイメージしていた白山北面の尾根の周回ルート。白山北面にはいくつかの登山道があるが、いずれもなかなかの距離があり、登山者もかなり少なそうだ。
そのうち、駐車場からあまり遠くなくて、周回できるルートを地図で探して、中宮(ちゅうぐう)レストハウスの駐車場を起点にして岩間道を登って大汝峰へ行って、そこから中宮道を下山して駐車場に戻るというルートを設定した。
駐車場の標高が約 600m で大汝峰が 2684m なので、標高差は 2000m を越える。距離約 35km。コースタイムでは 20 時間を少し超えるくらい。
これなら十分に満足できるだろうと思った。
日曜日の天気が微妙で、決行するかどうか金曜日の夕方まで迷ったけれど、昼くらいまでは持ちそうだったので、梅雨の時期にこういうチャンスはなかなか無いと思って行くことにした。

土曜日は早めに出かけて、中宮レストハウスには4時頃に到着した。
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土曜日は好天だったので車の中は暑く、持参した夕食を外で食べた。
地図をしっかり見てみると、漠然とイメージしていたよりも厳しそうだ。数年前に市ノ瀬から別山、御前峰、大汝峰、白山釈迦岳を周回した時よりも時間がかかりそうだ。12 時間以上かかりそうな感じ。
早めに出発しようということで、1時に起きて1時 52 分に出発した。シューズはもちろん HOKA RAPA NUI。
今回、最大の懸念が最初の三又発電所の送水管脇の階段上り。
立ち入り禁止のチェーンを2カ所ほど乗り越えて、階段の登り口がよくわからなくて少しウロウロしたけれど、鍵がかかって立ち入り禁止になっているフェンスを乗り越えて、ようやく古びた石の階段を発見した。
こんなところが市販の登山地図にルートとして載せられていていいのだろうか。もし昼間で職員が見ていたらどういう反応をするのだろうか。
石の階段はかなり急で、コケもたくさん生えていて、歩く人は少なそうだ。
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10 分少々で上の林道に出た。ここにも立ち入り禁止と表示されていた。
しばらく林道を行くと新岩間温泉の旅館があって、その少し上のゲートの所に案内の看板があった。
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何と予定していた岩間道は一部崩れていて上へ行けないので、登山者は楽々新道を行くようにとのこと。
元々どちらの道でも良かったので、あっさりと指示に従う。
しばらくまた林道を歩いて、出発して1時間足らずで楽々新道に入った。登山者が少なそうな感じで、いきなり激登りが始まる。
今回は上部の北面にはまだ雪が残っているのがわかっていたので、アイゼンを持ってくるかどうか迷ったが、雪面を長く歩くようなことは無いと思ってアイゼンは持たず、そのかわりにポールを持参してきた。
このポールがさっそく威力を発揮してくれた。
路面が少し滑りやすい状態でもあったので、ポールが無かったら余分に体力を消耗させられたことは間違い無い。
木が倒れて道が完全に塞がれていて大回りさせられたりしたが、順調に高度を上げて行った。
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4時を過ぎると空がうすら明るくなってきた。夜中から歩き始める登山で一番気持ちの良いのが夜が明けてくる時間帯だ。
樹林帯で、東側の展望の開ける場所がこれまであまり無かったが、4時 45 分にご来光を拝むことができた。
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これは私でもわかるイワカガミ。京都周辺の山ではもう終わっているはず。
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小桜平避難小屋。白山にはこういうタイプの避難小屋がたくさんある。
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この先で岩間道と合流したが、分岐点には岩間道が通れないという表示は無かった。はたしてどの程度の崩れなのだろうか。
右の山の斜面のジグザグがこれから登る七倉山への道で、左が大汝峰。
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風が強くなってきたのでジャケットを羽織った。
ぼたもち休憩していたら、上から下りてくる単独行者に出会った。今日、初めて出会った登山者だが、私のようなトレランスタイルだった。
七倉山を越えて大汝峰を向かう時にちょっとした雪渓のトラバースがあって、少し緊張した。雪渓の下がどうなっているのか見えなかった。このポールでは滑落停止はできない。
大汝峰が近づいてきた。
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5時間くらいで行けるのではないかと思っていたが、すでに5時間を超えている。
しばらく行くと数人のパーティに出会った。いかにもお花目当てという感じの中年パーティ。
もう少しと思ったけれど実際はなかなか遠く、7時 40 分、スタートからほぼ5時間 50 分で大汝峰(2684m)に到着した。
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風が強くて寒かったので、祠にお参りをして早々に南に下山した。
室堂への道から分かれて東の中宮道へ向かう。ここからは初めての道だ。
少し下ると道標があり、中宮温泉まで 18.5km とあった。気持ちが萎える。
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このあと、何度か雪渓が出てきた。傾斜はそれほどではないし、滑っても滑落するような箇所ではないので、不安は無いけれど、やはりこういう箇所はトレランシューズでは歩きにくい。ある程度の堅さがないとキックステップもうまくいかない。
雪面を見ると、うまく靴スキーで滑った跡があった。とてもこんなマネはできないと思ってふと思い出した。ついこの前の水曜日にYASUHIRO先生がここを歩かれているのだ。おそらくその時のトレースに違いない。
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高山植物がいろいろと出てくるのでしばしば止まって写真を撮るが、名前はまったくわからない。帰ってから調べようと思う。
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山頂から標高で 500m ほど下ると雪はほぼ無くなる。しかしここからはしばらく緩いアップダウンの繰り返しで、歩いても歩いてもなかなか標高が下がってくれない。
地獄覗からの地獄尾根の眺めは圧巻。地獄尾根の向こうの尾根は岩間道。
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途中でおにぎり休憩。標高が下がって気温が上がってきたのでジャケットを脱ぐ。
山頂から2時間 40 分ほどかかってようやくゴマ平避難小屋に到着した。中宮温泉まであと 10km。
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こういう避難小屋に一人で入るのはあまり好きではないので、外で腰掛けてジェルを補給した。
どうもカメラを入れたり出したりしているうちに、同じポケットに入れていた gps 用の地図を落としてしまったようだ。登山地図は持っているのだが、gps を見てぱっと現在地点が見えないのが困る。
今回はバッテリーがへたってきた garmin fenix をやめて、etrex 20 だけにした。最近、この etrex を腕時計のような位置で装着できるホルダーを購入したので、それのデビュー戦でもあった。
この重さ(155g)を手首につけるのはちょっと煩わしいかと思ったが、歩きの登山で、おまけに今日はポールを持っているので、ほとんど気にならなかった。
この gps は地図を入れていて、白山のようなメジャーな山だと今日の登山道も入っていたので、等高線も表示されるので非常に具合が良かった。
とは言っても現在地が全体のどのあたりになるのかというのを確認しようとすると、地図の画面をズームアップしたりズームダウンしたりしなければならないので、やはり紙に出力した地図がほしい。が、もう仕方無い。
と言うことで、登山地図を眺めていたら、雨がポツポツと降ってきたので、早々に腰を上げて下に向かった。
雨は微妙な強さで、基本は小雨程度で雨具を着るほどではないけれど、時折本降りくらいになる。しばらくそのまま歩いていたけれど、本降りレベルがしばらく続いたので致し方なくジャケットを上だけ羽織って、帽子をかぶった。天気予報では下り坂だ。
ところが雨具を着ると雨が止む。どうせまた降ると思ってしばらくそのまま歩いていたけれど、何と空が明るくなってきた。
もう大丈夫だろうと思って雨具を脱いだところ、ほんの数分でまた雨が降り出してきた。
おまけにこのあたりも道は登ったり下ったりの繰り返しで、なかなか標高が下がらない。
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それよりも熊が出てきそうな雰囲気で、非常に不気味だ。さっき道に大きな糞が落ちていたけれど、おそらく熊のものだと思う。まだそれほど時間が経っていない感じだった。木の幹を激しく引っ掻いた跡もあった。
とにかく前方に注意して、もし熊に出会ったらどうするかということだけを考えながら歩いた。もう花の写真どころではない。
そうしていたら前で単独行の人が休んでいるのに出会った。人で良かった。今日、人に出会うのは3回目。
うんざりしながら雨具を脱いだり着たりしながら、12 時 40 分にシナノキ平避難小屋に到着した。
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登山地図のコースタイムで中宮温泉まであと3時間。それから駐車場まで車道を行かなければならないので、まだ2時間以上はかかるだろう。
少し進んでから道ばたでぼたもち休憩していたら、さっきの単独行の人が追いついてきた。60L くらいありそうな大きなザックを背負っている。
いよいよ下りが急になってきた。道も結構荒れている。所々にはロープが張られている。
登山者が少ないようで、草が覆い茂って道がわかりにくい。足元の草についた水滴でシューズはびしょびしょだ。
ゴールが近づいたのが感じられて気持ちに余裕が出てきたのか、ササユリに気が付いた。
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ようやく足元に中宮温泉の建物が見えた。
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2時半にようやく登山道の入り口に降り立った。ちょうど例の単独行の若者も一緒だった。
このあと車道を 1km 少々走って(ここが走れたのは HOKA を履いていたおかげだ)、2時 50 分に駐車場にゴールした。ほぼ 13 時間の修行だった。
帰りに発電所の送水管を眺めてみた。
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十分に満足しました。