最初からわかっていたことではあるけれど、シートを倒しても床が完全にフラットにならないので、腰のあたりに段差ができる。段差を改善できるようなマットを用意してきたけれど、狭い場所に敷くのが面倒で、そのまま寝てしまった。寝心地はやはりあまり良くなかった。
夜はかなり冷え込んだが、朝は快晴で、まずはゴンドラで上に向かった。
ロープウェイに乗り継いで、自然園に下り立った。久しぶりにスキーにシールを貼る。グルー(糊)は少し塗り足してきたけれど、何と言っても10年前のシール。はたしてしっかり効いてくれるだろうか。
みんな天狗原の方に向かうのだろうと軽く考えていたら、二つの方向に向かうパーティに分かれていた。
以前のかすかな記憶で、何か建物のそばを通ったような気がしたので、栂池ヒュッテの方向に進んだ。
しかしどうも地形がおかしいし、こちらに来たパーティは自然園の方向に向かっているように思える。
やはり間違っていた。尾根の方向に向かうべきだったのだ。
元に戻るのは面倒なので、前の尾根に上がっているトレースを追うことにした。おそらく私と同じように間違えた人が戻るために辿ったトレースだろう。
シールはしっかりと効いてくれている。雪の付着も無い。
ほどなく正規のルートに戻って、前の人たちのトレースを追う。
後立山連峰の山々が見渡せる。右の高い山が白馬鑓ヶ岳と杓子岳かな? 10年ほど前、ゴールデンウィークの後くらいの時期に、猿倉から白馬の大雪渓を上がって稜線に出て、白馬鑓ヶ岳からスキーで猿倉まで滑り降りた。
山岳会の人と一緒に行ったもので、途中で白馬鑓温泉の露天風呂を楽しんだ。
天気が良くて暑い。途中でジャケットを脱いだけれど、汗がしたたり落ちる。
上空にヘリが飛んでいる。事故だろうか。下山してから聞いたニュースで、唐松岳付近で事故があったことを伝えていた。
ロープウェイの駅から1時間20分ほどでようやく天狗原に到着した。前回来たときはここから振子沢を下りて蓮華温泉に向かった。
その時は天候が悪くて、我々より後に出たパーティで天狗原で遭難事故が発生して、死者が出た。今日は快晴無風だけれど、その時は強風が吹き荒れていた。ここは真っ平らなので吹きさらしになる。視界が悪いと進む方向がわからなくなる。
登りは順調だった。天狗原から50分ほどで2436.5mの岩峰に到着した。
最高地点はもう少し先だけれど、ここからはハイマツのブッシュ帯なので、スキーには適さない。なので今日はここを最高到達地点にする。
ここでどら焼きを食べて一服する。目の前には妙高の山々。火打山の北面や乙妻山北東斜面など、いずれも素晴らしいコースだった。
しかし問題はこれからの下り。最近、新雪が積もっているようで、しかも結構重い。
シールを剥がして、ブーツのバックルをしっかり締めて、ビンディングを踏み込んだ。
そして恐る恐る滑り出したその瞬間、これはダメだと直感した。ほんの数回のゲレンデ練習など、何の役にも立たないということを悟った。
傾斜はそれほど急ではないので何とかターンはできるけれど、転倒しないようにバランスを維持するのが精一杯で、1ターン毎に休まないと脚が持たない。
天狗原の平原がすぐ下に見えるけれど、そこまでが果てしなく遠く思える。
天狗原からの下りも苦労した。最上部から、昔ならほんの数分程度で下りてきたであろう斜面をほぼ1時間かかった。
実は朝、ゴンドラとロープウェイの往復チケットを買っていた。よく考えたら帰りはロープウェイの部分は滑り降りることができるので、ロープウェイは行きだけで良かったので損をしたと思ったのだけれど、今となっては往復を買っておいて良かったと思った。
ロープウェイの駅にたどり着いた時、これで私の山スキーは終わったと思った。北海道の山スキーなどもはや夢物語。ゲレンデスキーをやるつもりは無いので、おそらく今日が人生最後のスキーになるだろう。
こういう結果に終わるかもということは薄々とは感じていたので、それほどの失望感は無い。やっぱりそうだったかというくらいの気持ちだ。
この歳での10年近いブランクというのはそう簡単に取り戻せるものではないし、もはやそこまでの意欲も無い。
北海道での山スキーという夢があったので山スキーは諦めきれなかったのだけれど、これでもうすっきりした。
こういうこともあり得ると思っていたので、今回は普通の登山靴とアイゼンも用意してきている。明日は白馬の大雪渓にでも行ってみようと思う。
まずは八方の温泉ですっきりして、
昨日と同じスーパーで夕食を買って、猿倉に向かった。
白馬から猿倉に向かう道は以前、走ったことがある。白馬から栂海新道へ行こうとして、大糸線の電車が遅れて猿倉までのバスに乗れず、やむなく走ることになってしまった。一人でタクシーなど恐ろしくて乗れない。
こんな道をよく足で走ったなと思いながら車で進んだ。今なら考えられない。
午後5時に無事、猿倉に到着した。