ようやく県をまたぐ移動自粛も解除されて、高速の休日割引も復活したので、久しぶりに手応えのあるルートへ行こうと思った。
白山の北にある加賀禅定道は以前から気になっていた。しかし長い。登りの標準コースタイムは 10 時間近いし、標高差も 1800m ほどある。
実は一里野スキー場からのルートなら標高 1000m あたりまで車で上がれるということを最近知った。これなら稜線までのピストンならば行けそうだ。しかし今一つ魅力に欠ける。
それならばということで思いついたのが、新岩間温泉に車を置いて、まずは車道をハライ谷の登山口まで戻って、そこから加賀禅定道を七倉山の稜線まで登って、そこから楽々新道を下ってくるというもの。もし余裕があれば大汝峰まで足を伸ばす。
しかし大汝峰まで行かないにしても標高差 1800m、30km 近い距離がある。
ちょうど 4 年前に中宮レストハウスを基点にして楽々新道から大汝峰、中宮道の周回をやったけれど、長距離長時間歩行能力の最盛期だった頃で、もはやそんな体力は無いということはわかっている。
最悪、途中でもうムリと思ったら往路を引き返すということにして、好天予報の 6/21(日) に実行すべく、土曜日に新岩間温泉に向かった。
何年か前に家族で泊まった山崎旅館は休業していた。
夜は冷え込むかと思って中綿ジャケットまで持ってきたけれど、まったく不要だった。満天の星空のもと、午前 1 時 55 分に駐車場を出発した。
登山口までは車道をスロージョグで行く。思ったよりも遠かった。5km 弱を 40 分ほどかかってようやく登山口に到着した。
大昔はハライ谷にルートがあったそうだが、今は谷の東側の稜線を辿っている。いきなり急坂をジグザグで上がる。今日はポールを持ってきているので、少しでも脚力を残すために腕を使って登っていく。
今日は夏至なので夜明けが一年で一番早い。4時を過ぎると東側の空にきれいな朝焼け。
足下にギンリョウソウ。
花はいろいろ咲いているけれど、写真を撮るのは下りにして先を進む。
4 時 15 分、檜の新宮に到着。かつては加賀禅定道第一の行場として栄えたそうだが、今は北陸電力が献上した祠があるのみ。
4 時 30 分、一里野からの道に合流するしかり場に到着。標高 1550m くらい。
4 時 44 分、ご来光を拝む。
5 時 1 分、口長倉山(1660.5m)を通過。
ようやく前方の全容が望めた。右端が四塚山(2519.4m)。まだまだ遠い。
しかし思ったよりも残雪が多い。前回の楽々新道もちょうど同じ時期で、アイゼン無しで苦労した記憶が無かったので、今年は雪が少ないだろうと思ってアイゼンは持って来なかった。それよりも長丁場を想定して食糧を多めに持ってきた。
奥長倉避難小屋。ここも水は無さそう。
稜線に上がってからはアップダウンの繰り返しでなかなか標高が上がらない。こういうのは体力もさることながら気分的に疲れる。
美女坂を這い上がって、百四丈滝(ひゃくよじょうのたき)を望む。このルートに来た目的の一つがこの滝を眺めること。落差 90m。
池塘がチラホラ。
いつものことですが、白山は活火山です。
標高 2000m を超えると雪が出てきた。
加賀室跡。かつては宿坊のようなものがあった。
天池。
この先で前方に単独行の登山者が見えた。私よりも早く出た人がいたのだろうか。
残雪に苦労しながら進んでいたら、ジャンクションピークの雪の斜面を先行者が登っている。しかし雪の切れた場所にはトラバースルートがあるように見える。
目を凝らして見渡してみたらそれらしいトレースが見えたので、私はそちらに向かった。
ジャンクションピークを越えたあたりでまた残雪斜面のトラバースに苦労していたら、後ろから登山者が現れた。おそらく先ほどの単独行者で、ジャンクションピークで追い抜いた模様。
油池。
前方を見るとあとはハイマツ斜面をひたすら登るだけと思っていたら、思いがけず雪のガリーが現れた。
左側のヤブを支えにして右手に2本のポールを持って、斜面の端ギリギリを強引に登った。
標高差であと 200m くらいだが、さすがに疲れてきた。時々立ち止まって足を休める。もはや大汝峰までという気持ちは微塵も無い。
9 時 26 分、ようやく稜線の分岐点に到着した。出発してから 7 時間半。登山口から 6 時間 50 分かかった。
大汝峰への未練はまったく無い。前回、楽々新道を登った時はここから大汝峰へ向かったのだけれど、あの時はこんなに雪は無かったような・・・。
楽々新道への道の状況が心配なので先の様子が見える場所まで進んで、展望のいい場所でおにぎり休憩にした。
辿ってきた稜線。
そしてこれから下る楽々新道の尾根。
東側に地獄尾根。背後には前回下った中宮道の稜線。
足下にはハクサンイチゲ。
このあともしばしば残雪斜面が現れて苦労させられた。トレランシューズの最大の弱点は雪の斜面で、キックステップが効かないのでツマ先やカカトを雪面に蹴り込んで歩くということができない。
登山靴なら気楽にカカトで踏み込んで下れるような雪面でも一歩ずつ慎重に下りなければならない。
そうやってゆっくり下っていたら、後ろから「さっき追い抜かれた方ですね」という声が。登りで追い抜いた単独行者だった。彼は登山靴を履いているので何ということもなく下りてきた。その後、相前後しながら下っていった。
イワカガミ(コイワカガミ?)。
岩間道は通行止め。
ここでまた単独行者と出会って少しお話し。今朝どこから来たのか尋ねてみたところ、奥長倉避難小屋で前迫したとのこと。ハライ谷の登山口に軽自動車が停まっていたが、その所有者だった。
少し進んだ所に湧水があったので、そこで水を補給した。彼は小桜平避難小屋の水を煮沸するとのこと。
なかなか標高が下がらないのにうんざりしながら歩いていたら、足下で突然ガサガサという物音が・・・。
ふと見たら、ヘビを踏んづけていた!!!。結構大きなヘビだった(体長 1m くらい)。シマ模様は無かったのでマムシではなかったと思う。
マイヅルソウ。
ゴゼンタチバナ。
午後2時3分、ようやく車道に下りたった。前回登った時はここに道標があったような気がするのだけれど。
あとは林道を淡々と下るだけ。とても走る気にはならない。ジャリ道というせいもあるけれど。
午後2時 24 分、ようやく駐車場に戻ってきた。
行動 12 時間半、約 30km。これが今の限界と感じた。
温泉は「一里野高原ホテルろあん」へ。私が利用している山岳保険の jro と提携していて、入浴料金が割引で 500 円になる。
わりと小ぶりの風呂で、露天は定員4人くらい。あまり温泉という感じのしないお湯だったけれど、すいていたし、コロナの影響か非常に清潔な感じだったのが良かった。
帰り道はスイスイで、残したおにぎりやパン、コーヒーなどを飲みながらでも4時間ほどで家に帰りつくことができた。
久しぶりにほぼ目一杯という行動で満足感はあったけれど、ほとぼりが覚めてから冷静に振り返ると、上部の残雪のあった場所ではかなり危険な所が何ヶ所かあった。
沢に落ちる雪の斜面の上部を何度かトラバースしたのだけれど、もし一度でも足を滑らせていたら今ここにはいない。
残雪期に 2000m を越えるような山へ行く場合は、アイゼンとピック付きポールは必須だと思った。
本来なら登山靴で行くべきなのだが、トレランシューズの軽さに慣れてしまうと本格的な雪山以外では登山靴を履こうという気になれない。特に今回のように一部でも走れる部分があることがわかっていると、走れるシューズという選択になってしまう。
トレランをやるようになってからはどうしても軽量化ということを最重視する傾向があったのだけれど、これからは安全面を最重視するようにしなければと思った。
どうせもう山道で走るという体力は無いので、多少重くなっても安心感を感じられるような装備の準備をしなければと思い直した。