天子山地

富士山の西側にある天子(てんし)山地はUTMF(現Mt.FUJI100)のコースの一部になっている。山が長く続いて、レースの中でも厳しいパートになっている。

ここがどんな場所なのか怖れと期待の両方の気持ちを抱いていたのだが、私が参加した時は悪天のために天子山地に入る手前の朝霧高原でレースが打ち切りになってしまって、ここを走る(歩く?)ことができなかった。

それ以来、天子山地だけでも歩いてみたいという気持ちをずっと持ち続けていた。しかしなかなかうまいスケジュールが立てられず、ずるずると時間ばかりが過ぎてしまっていた。

ワンウェイなのでもし車で行くとすると出発地点に戻ってこなくてはならないのだが、このあたりを走るバスは本数が限られていて、最終を逃すと翌日まで待たなくてはならない。20kmの車道を走って戻るなんて今はもう考えられない。

テント泊にすると荷物が重くなるし、それに稜線歩きなので水場が無い。

さんざん迷ったあげく、午後のバスで本栖湖を出発して、夜を徹して歩いて早朝に南の端の白糸の滝にゴールするという計画を立てた。

夜間歩行になる部分は登山地図では不明瞭な道という表記になっていて、経験者と同行するようにという注意書きが書かれているのだが、これまでにUTMFで何度も走られているし、半月ほど前には Mt.FUJI100 のレースが行われた後なので、それほど不明瞭ということはないのではないかと考えた。

5/10(金)の朝に家を出て、まずは新幹線で新富士駅へ。

新富士駅のホームからは富士山がくっきりと眺められた。

左には天子山地。意外とボコボコしている。

駅にある店で生しらす丼というのを食べた。新鮮でおいしかった。

バスの出発が25分遅れるとのこと。バスも運転手もすでに到着しているのにどうしてなのかはわからない。

このバスはUTMFに参加した時にも使った便で、その時はガラ空き状態だったのだが、今日はかなりの乗客がいる。半分以上が外国人旅行客。途中の富士宮駅からは立ち客が出るくらいだった。

天子山地を左に眺める。

あれは天子山地最高峰の毛無山?

これは竜ヶ岳。

本栖湖の手前に芝桜のイベントをやっている会場があって、ここでたくさんの乗客が降りた。しかし外国人が料金の支払いに手間取って、ここで15分か20分くらい待たされた。

予定の時刻から1時間くらい遅れて2時半くらいにようやく本栖湖に到着した。ここで降りたのは私一人だった。

本栖湖を出発したのは2時45分くらいだった。しばらく車道を行く。

道標に導かれて竜ヶ岳の登山道に入る。

キャンプ場を抜けて少し車道を歩いてからまた登山道に入る。

しばらくすると木の階段が出てきた。歩きにくいのでできるだけ横を登る。

本栖湖を見下ろす。

あたりが開けてきて、左側には富士山の雄大な姿。

何やら、お地蔵さん?

4時22分、竜ヶ岳の山頂(1485m)に到着した。

毛無山は遠いのか近いのか・・・。

ちょっと何か補給したいところだが風が強くて寒いので先に進む。

風の当たらない場所で腰を下ろして小さなパウンドケーキを食べて、少し行ったらすぐに端足峠(はしたとうげ)に出た。

登りになったら道が厳しくなってきて、ついにポールを出した。

6時8分、雨ヶ岳(1771.6m)に到着した。

しばらく風が強くて寒くて、今日の装備で大丈夫かどうか不安を感じたが、うまい具合に風は収まってきた。

富士山を眺めながら気分良く進む。竜ヶ岳の登りで下山してくる人に何人か出会ったが、その後は誰にも出会わず。おそらくこの先も出会うことはないだろう。

午後7時、かなり薄暗くなってきたのでヘッドランプを出した。

その後、あたりが暗いせいかスマホのカメラのシャッターが切れなくなってしまった。フラッシュをONにしてもダメ。翌朝まで証拠写真は無しとなってしまった。

ここから先はアップダウンが厳しくてスムーズに進めなかった。

毛無山の最高地点と思われるあたりを通過したが、UTMFの映像で見覚えのある山頂の標識が見当たらない。しばらくやや下り気味のおだやかな稜線になって、いつの間にか標識を見落としてしまったのではないかと思っていたら、7時58分に山頂(1945.4m)に到着した。

このあたりの最高地点は1964mなのだが、山頂の標識と三角点は少し西に下ったところに設置されている。

ここで腰を下ろしておにぎり休憩にした。

厳しい道を下って地蔵峠に下り立って、少し進んで朝霧高原への下山路を見送って先に進む。

ここからの登りも厳しかった。あたりが見えないのでいつまで登りが続くのかわからず、急登の途中で腰を下ろして少し休憩した。

その少し先が雪見岳(1605m)だった。10時4分。

それにしても厳しいルートで、のんびり歩けるようなところがほとんど無い。暗いのでよくわからないが両側が切れた狭い馬の背のようなところもあった。

熊森山(1574.9m)は10時57分に通過した。

熊森山を下ってしばらくすると道が穏やかになってきた。フラットでのんびり歩けるようなところもあって、ずっとこれが続いてくれることを祈った。

厳しい部分も多少はあったがおおむね穏やかな道で、1時40分に長者ヶ岳(1335.7m)に到着した。ベンチがあったので腰掛けておにぎり休憩にした。

ここからは東海自然歩道で田貫湖に下りる道が分かれているが、私はさらに南の天子ヶ岳に向かう。

天子ヶ岳の手前で「天子ヶ岳0.9km、白糸の滝9.9km」という道標があったが、いくら何でも白糸の滝まで9.9kmはないだろうと思った。

天子ヶ岳の山頂(1330m)の標識は山頂と思われるところから少し下った場所にあった。2時18分。地形としては天子山地はまだこの先、南の方にしばらく延びているのだが、この稜線は道が無いもよう。三角点のあるピークもいくつかあるのだが。

あとは白糸の滝に向かって下るだけだが、この下りはうんざりするほど長かった。

しばらく段差のあるジグザグを下って、広い道に出たのでこのまますんなり下るのかと思ったらまた登山道の細い道になって、しかも尾根が広くて踏み跡がいろいろあるのでどこが正しいルートなのかよくわからず、gpsを何度も確認しながら慎重に下った。

一旦、車道に出たが、すぐにまた山道に入る。涸れた沢のような道をひたすら下る。

3時58分、ようやくまともな車道に出た。しかし白糸の滝まではまだしばらくある。

4時20分、空が少し白んできてようやくカメラのシャッターが押せた。

白糸の滝に到着したのは4時35分だった。

まずはバスの時刻を確認する。新富士へ行くバスは10時過ぎなのだが、富士宮までならもっと本数があるのではないかと期待した。

バス停で確認すると6時半にあるようなので、それまで白糸の滝を見たりして時間潰しする。

そばにファミリーマートがあるのがわかっていたので、まずは暖かいカップラーメンで一服することにした。ゴールしたらビールをぐいっと思ったりしていたのだが、寒くてそういう気分にはならなかった。

一息ついたらまずは音止の滝へ。まぁ、普通の滝。

そして白糸の滝へ。

ここは不思議な滝で、川や沢の水が落ちているのではなく、断層から地下水が溢れて滝になっている。昼間なら相当の観光客で賑わっていると思うが、朝の5時なので誰もいない。

またファミリーマートへ行ってコーヒーを買ってそばの広場でのんびりしてからバス停に向かった。

バス停から来し方を振り返る。左が天子ヶ岳で右が長者ヶ岳。

さらに右奥には毛無山。

ガラ空きのバスで7時過ぎに富士宮に着いた。しかし新富士へのバスは10時過ぎらしい。路線バスを乗り継いで新富士へ行くルートもあるようだが、初めての場所で路線バスを乗り継ぐというのは不安なので、10時過ぎまでのんびりすることにした。

実は歩いて10分くらいのところに富士山本宮浅間大社があって、時間潰しにはちょうどいいのだが、天子山地で満足してしまって足を伸ばす気分にはなれなかった。

気温も上がってきたので近くのセブンイレブンでビールのロング缶を買ってきて、駅のベンチで朝ビールを楽しんだ。一睡もしていないのでアルコールがまわるとすぐにウトウトして、いつの間にやらバスの出発時刻になっていた。

gpsのトラックによると歩行距離約30km、14時間30分で、昨年のニペソツを超える厳しい山行になった。