フォアフット走法

数年前にランナーズ誌で『フラット走法』という呼び方で紹介されてから、頭の片隅にはずっと置いていた。かつて瀬古利彦と何度かラスト勝負をやった往年の名ランナーであるタンザニアのジュマ・イカンガーは、つま先から着地しているという解説をその当時に聞いた記憶がある。
昔からずっと、長距離のランニングは『カカトから着地する』と言われてきた。自分ではカカト着地を特別意識したことは無かったが、ずっとそういうふうに走ってきたと思う。瀬古利彦氏もテレビの解説では『マラソンはカカト着地』と言っていたし、小出義雄氏も著書では『カカト着地』と書いておられる。しかしながらケニアやエチオピアのランナーがマラソンのトップクラスを占めるようになってから、『つま先着地(フォアフット)』がにわかに脚光を浴びてきた。
トラックの短距離や中距離は昔からつま先着地である。100mのトップクラスの選手の走りをスローで見ると、カカトはほとんど地面に着いていない。つま先だけでスパイクのピンをトラックに引っかけるように走りきる。いわゆる『ひっかき走法』というやつである。5000mや1000mになるとそこまではいかないが、接地するのはカカトからだったとしても、着地の瞬間の体重を支えているのは拇指球のあたりだ。

論理的に考えると、フォアフットの方が有利であるのは明らかだ。カカトから着地するということは身体の重心よりも前で着地しているということなので、着地の瞬間ブレーキがかかる。さらに着地の衝撃に対する地面からの反作用が進む方向と逆方向に働くので、それを受け止めるためにさらに脚筋に負担がかかる。
しかしちょうど身体の重心の真上でフォアフットで着地すると、ブレーキになるような方向の反作用は働かない。さらにこのタイミングで着地するとその直後にアキレス腱が伸ばされる力が働いて、アキレス腱の伸張反射の効果を得ることができる。自分で意識しなくてもアキレス腱が勝手に短縮して地面を蹴ってくれるわけである。
裸足で歩くと誰でも必ずフォアフットの着地になる。芝生や砂浜なら話も違うが、硬い道でカカト着地すれば痛くてたまらない。つまりフォアフットは人間本来の自然なフォームのはずである。ところが小さい頃から靴を履くことが当たり前になってしまっているので、楽なカカト着地のフォームが身に染みついてしまっている。フォアフットで歩くのは現代人にとっては強く意識しないとできなくなってしまっているからだ。
アフリカのランナーが一様にフォアフットで走れるのは、その育ちによるところが大きいと思われる。今、第一線で活躍しているランナーのほとんどは、ごく普通のアフリカ民族として生まれて育ってきた人たちばかりなので、子供の頃は裸足で生活していたはずだ。フォアフットのフォームが自然と身についているのである。ゲブレセラシェもフォアフットで走っているし、パトリック・マカウもフォアフットを意識していると言っていた。
実はトレイルランニングでも同じで、トップクラスの選手は登りではほとんどカカトを地面に着けない。一見、こういうフォームで登るとすぐに疲れてしまいそうに思えるが、レベルの高い選手ほど終盤までこういうフォームを保っている。
さて自分のことだが、ここ半年ほどはフォアフットを強く意識して走るようにしている。とは言っても長年の習慣で染みついたフォームはそう簡単には変わらないので、スピードが上がったり、疲れてきたりすると、わかっていても思うように脚が動かせなくなる。しかし最近のレースでの自分の写真を見ると、以前に比べると少しフォームがマシになってきているような気はする。
以前は自分の写真を見ると『カッコ悪いフォームやなぁ〜』という印象しかなかったが、最近はまれに『これなら悪くない』と思えるシーンを見つけられることもある。そこで、先日のOSJクロスマウンテンマラソンではフォアフットを強く意識して走った。
登りが急になればなるほどフォアフットを強く意識して、下りもあまり急でなければフォアフットで着地の衝撃を逃がすように意識して走った。おかげで登りも一度も歩くことなく、最初から最後まで完全に走り続けることができた。あの予想以上の好結果は、この走りによるところが大きいと思っている。
さらにレース後は、林道を42km走ったとは思えないくらい筋肉痛がほとんど無かった。これまでならトレイルを走った後は下りの衝撃で大腿四頭筋の筋肉痛が必ず出るのだが、今回はまったくと言っていいほどそれが無かった。どちらかと言うとハムストリングと大臀筋に少し筋肉痛があって、これは良いフォームで走れた証だと思っている。
せっかくフォアフットのフォームが少し身についてきたので、これを何とかマラソンに活かしたい。淀川市民マラソンまであと1ヶ月少々。スピードよりも、良いフォームの練習に時間を割きたいと思う。

「フォアフット走法」への2件のフィードバック

  1. まつだ様初めまして。私も、最近つま先着地を心がけて走っております。今年で走り始めて23年になります。左足のアキレス腱を痛めてしまいまして、大変であります。いわば、走り方 かかと着地からつま先着地にするのですから、走りかたを根本から変えるわけであります。靴も、ニューバランスのメーカーのつま先着地用シューズを履いて毎日走っております。無理せずに行っていきたいと思います。

  2. 小川さま、コメントありがとうございます。
    大切なのはカカト着地かつま先着地かということよりも、着地した時の衝撃がブレーキにならず、なめらかに蹴り出しできる動きになっているかどうかということだと思います。
    私は今はフォアフットということはあまり意識せず、上記のようなことを一歩ごとに確認するようにしています。結果的には滑らかな動きができた時はフォアフットぎみになっているように感じます。
    往年の瀬古選手などはカカト着地に見えますが(正確にはカカト接地でしょうか?)、おそらく体重移動が滑らかだったのではないかと思います。
    私の目指すのは高橋尚子さんのような忍者走りフォームです。
    もはや筋力や体力を向上させることは望めませんので、いかにロスの少ないフォームで走るかということが重要だと思っています。
    お互い、これからも走りを楽しんで行きましょう。

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