それにしても惨憺たる結果と言わざるを得ない。それは昨日の横浜国際女子マラソン。
まるで時代が 20 年以上遡ってしまったのではないかと錯覚するようなレース内容で、しかも日本人トップは5年ほど前に距離スキーからマラソンに移ってきたという野尻あずさ選手。
野尻選手個人の努力は素晴らしいとは思うが、陸上競技経験の無い選手。しかも 20 代の半ばを過ぎてからマラソンを始めた選手が、国内メジャー大会で日本人のトップになるなんて、いったいどういうことなのだろう。しかもこんな平凡なタイムで(2:28:47)。
一時期、男子マラソンがなかなか2時間10分を切れる選手が出なくて低迷していた時期があったが、今まさに女子がその状態に陥っている。男子は川内優輝効果で若干上向き傾向になっているが(世界のトップとはまだまだ差が大きいとは言え)、女子は地盤沈下に歯止めがかからない状態だ。
私自身は陸上競技の経験は無いので、現場の実態のようなことはよくわからないが、かつて世界のトップレベルで戦った選手や指導者に言わせると、今の選手は練習量がその当時に比べるとかなり少ないらしい。
マラソンの練習というのは量と質のバランスが大切で、単に距離ばかり踏めばよいというものでもない。世界的に見ると日本選手の練習量はかなり多い方で、ケニアやエチオピアの選手などは月間 1000km も走るようなことはあまり無いらしい。しかし練習時のスピードはかなり速いらしい。しかもクロカンのような不整地を走ることが多いようだ。
福士選手が初めてマラソンに挑戦した時、夏場にエチオピアへ行って、ゲブレシェラシエなどの練習に参加させてもらったらしい。その時の彼らの練習パターンを真似て、量よりも質を重視した練習で臨んだところ、終盤に大失速して惨敗したという話を聞いたことがある。
やはり民族によってその体力や筋力などは特性があるのだろう。かつて世界レベルで活躍した日本選手で、月間 1000km に及ばない程度の練習量だった選手というのは聞いたことが無い。強いて言えば川内選手がそれに該当するのかも知れないが、日本人としてはトップレベルではあっても世界との差はかなり大きい。
藤原新選手もオリンピック前はスピード重視の練習メニューにしていたようだが、本番では惨敗した。
これまでの実績を見る限りでは、日本人はたっぷり走り込まないと、マラソンをきっちり走りきれる脚は作れないようだ。逆に言えば、練習でしっかり走り込めば、スピードはそれほどなくても世界と戦えるレベルまで行ける可能性があるということになる。
渋井陽子はトラックでもスピードのある選手だったが、高橋尚子や野口みずきはトラックの 5000m は 15 分台前半のレベルだ。これくらいのレベルの選手は今でもいくらでもいる。
世界のマラソンが高速化しているということで、トラックでのスピード強化にも重点が置かれているようだが、マラソンに向いているような選手は若いうちからどんどんマラソンに挑戦させれば良いのではないだろうか。
あとは駅伝との兼ね合い。実業団ではどうしても駅伝重視にならざるを得ないので、このあたりを指導者がうまくスケジュール調整する必要があるだろう。
しかし最後に重要なのは、スター選手が登場すること。最近の選手は一度いいタイムを出しても、後が続かないので、日替わりメニューのように日本人トップが変わる。変わらなければタイムが平凡。
普段、トラックレースで競っている相手がマラソンで好結果を出すと、自分にもできるのではないかという気持ちになれると思う。そういう好循環が生まれてほしいと思うが、福士選手がまたマラソンを走るかどうかはわからないし、彼女ももう若くない。それに彼女はトラックではダントツだったので、他の選手から見れば別格と映るかも知れない。
新谷仁美選手がまたマラソンを走ればおもしろいと思うが、どうもまだあまりその気は無いようだ。ただ、トラックで世界のトップと戦うのは非常に厳しいと思うので、世界レベルでの勝負がしたいのであればやはり早めにマラソンに軸足を移すべきだろう。そうしないと弘山晴美のように、初マラソンが自己ベストで終わってしまう。