続・ある山スキーヤーの死

その後の詳しい情報によると、亡くなったS氏は頭部に落石を受けたにもかかわらず、頭部や顔面の損傷はそれほどひどくなかったらしい。ただ、救出時は耳からかなりの出血があったようで、重度の脳挫傷と思われる。
個人的な面識は無いのであくまでもS氏のホームページやお知り合いからの情報だが、氏は山では常にヘルメットをかぶっており、同行経験のある人たちによれば『こんなところで』と思えるような場所でもヘルメットは放さなかったらしい。
事故時も当然ヘルメットをかぶっておられたが、なぜか割れていなかったらしい。
ヘルメットは、ある程度以上の衝撃を受けると割れるように作られている。割れることによって衝撃を逃がして、頭へのダメージを軽減させるためである。極端に強く作っても、どうせ生身の身体が耐えられない。
山ヤから見ても非常に慎重に見えたS氏が、よりによって頭部への落石で亡くなられるというのは、何とも皮肉としか言いようが無い。
自然は非情だ。その人が慎重か無謀か、社会的地位が高いか低いか、金持ちかビンボーか、人から好かれているか嫌われているか、そんなことは一切お構いなしである。
残されたご家族のショックはいかほどのものか、計り知れない。3人のお子さんはまだ十台のはずだ。
院長を務めておられたクリニックも地域の中核病院のような位置づけのところなので、今後の運営にも大きな影響が出るだろう。ただ、S氏の個人経営では無かったので(いわゆる『雇われ院長』)、すでに新しい院長が配置されて、表面的には平静を装っているように見える。こういうところは組織のありがたみと言うか、非情さと言うか・・・。
雪崩は直近の降雪状況や天候、気温、雪質などで、危険性をある程度推測することができるが、落石は難しい。今頃の季節は冬に凍った岩の割れ目の氷が溶けて非常に脆くなっている時期ではあるが、そんな場所は至る所にあるので、とにかく耳をすませて常に注意を払っているくらいしか対処方法が無い。
特に恐いのは雪の斜面を落ちてくる落石で、これは音がほとんど聞こえない。強風で風の音が大きかったりしたらなおさらだ。ずいぶん前のことになるが、京都のベテランクライマーがカラコルムの氷河で頭部に落石を受けて亡くなられたことがあったが、この時もまったく音も無く飛んできたらしい。
人の命に重いや軽いは無いけれど、S氏のような方がこんなにも突然、あっさりと亡くなってしまわれるというのは、とにかく残念と言うしか無い。