八ガ岳スーパートレイル

期待と不安で出かけた八ガ岳スーパートレイル。結果は、97km の第2関門で制限時間を 30 分ほどオーバーして収容された。

より大きな地図で 八ガ岳スーパートレイル を表示
金曜日の蓼科は思いの外暑く、車の窓を少し開けて寝たら蚊が入ってきて、窓を閉めてもすでに入った蚊に攻められ、やむなくシュラフを頭まですっぽりかぶって身体は汗みどろ。それでも頭の方にしばしば寄ってきて、ほとんど眠れなかった。
天気は思わしくなさそう。うっすらと夜が明けてくる5時に白樺湖畔をスタートした。
スタートしてすぐに八子ガ峰に向けたトレイルに入る。参加者は 500 人くらいで、半ばくらいの位置でスタートしたが、ほどなく、振り返ると最後尾がすぐそこに見えるくらいの位置になっていた。しかしあせりはまったく無い。
山の上あたりの何でも無さそうに見える場所で前が渋滞している。何と、ちょうどルートのところにスズメバチの集団があって、そこを突き抜けて行かなければならない。みんなはジャケットをかぶったりしていたが、ぼくはいつもと同じく白の長袖シャツを着ていて、手袋もしていたので、顔を手で覆って突き抜ける。
耳元でぶんぶんと音が聞こえて緊張したが、何とか通過できたと思った。そのとたん、右手首あたりにするどい痛みが!! スズメバチが服の上から刺している。ハチに刺されるというのは生まれて初めての体験だ。
あまり大きなハチではなかったので大したことはないだろうと思っていたが、走っているせいか、毒が周囲に広がっていくのをはっきりと感じる。これはちょっとヤバイかと思ったら、先行者も刺された人がたくさんいて、座り込んで手当している人たちがいた。
しっかりとポイズン・リムーバーを持ってきている人がいて、それを借りて刺された箇所から毒を吸い出した。しかしすでに数分時間が経っていたので、この後しばらくは痛みと痺れが残った。
相当な数の人たちが被害に遭ったようだ。明日またここを通らなければならないのかと思うと憂鬱になるが、明日ここに戻ってこれるかどうかはかなり疑問ではある。
一旦車道に出て、最初のエイド。パンやバナナなどをいただく。
しばらくは車道や未舗装道路などが続く。事前にある程度知っていたとは言え、それにしてもこの大会のエイドは貧弱だ。飲み物は水しかない。食べ物と言っても腹の足しになるようなものはほとんど無く、チョコレートやパワーバーを小さく切ったようなもの。あとはバナナやオレンジくらいだ。ロードのマラソンでももう少し充実している大会もある。
この大会はトレイルとは言っても本格的な山道はわずかで、ほとんどが林道のようなコースだと思っていたが、以外とシングルトラックの山道が出てくる。第3エイドを越えてからはかなりの急な登りが延々と続き、一旦車道に出てようやく終わったかと思うとまたトレイルの登りになり、体力的にも精神的にもかなりこたえた。次のエイドまで4時間かかった。
おかげで時間の割に距離が稼げず、ほとんど気にしていなかった制限時間がちょっと気になり始める。63km の第1関門の制限時間を1時間間違えて記憶していて、一時はここを越えられないのではないかと不安になったが、メモを見直したらあと1時間の余裕があってほっとした。しかし 50km も過ぎるとかなり疲れはたまってきていて、関門に引っかかったら引っかかったで、それでいいかという気持ちも少しは出てきた。
何とかたまの小降りくらいでおさまっていた雨が、このあたりから本降りになってきて、一時は土砂降り状態になってきた。しっかりした雨具を持ってきておいて良かった。
第1関門は制限時刻の1時間前に到着。これまでのエイドよりは少しはマシだったが、他の大会で見かけるようなうどんや豚汁のようなあたたかいものはまったく無し。コーラがあったのがせめてもの救いだった。
このあたりから薄暗くなってきて、樹林帯に入るとヘッドランプを点けた。雨のせいでいたるところに水たまりができて、どこが道なのかよくわからないところが出てくる。
広域農道のような道を延々と上る。最初は傾斜も緩くてスロージョグで行けたが、そのうちに歩きになる。未舗装林道になると黙々と歩き続けるのみ。単調な登りで、いつ終わるのかわからないような道を延々と登り続ける。登りが終わっても下りにはならず、ほぼ平坦なところがしばらく続く。たまに走ろうとしてみるが、もはや走り続けることができない。
半分の 80km は 16 時間を少し過ぎていた。後半のアップダウンを考えると、どう考えても完走はムリだろう。
4時間あまりかかってようやく次のエイドに到着したが、このエイドの貧弱さはあまりなもので、食べられるようなものは小さく切ったパワーバーのみ。『あたたかい麦茶』をもらったら『生ぬるい麦茶』。手前のエイドからかなりの時間がかかるというのはわっているはずだが、参加者のことをどう考えているのかと言いたくなるような対応だ。
昨年のこの大会の情報をネットで検索した時、昨年は 11 月に開催されて、天候は悪くはなかったものの、夜間は非常に冷え込んで、おまけにエイドが貧弱で、人がいずに水が置いてあるだけというような所もあったとか。しかもその水が凍っていたとか。場合によってはかなり危険な状態になりかねないような運営に対してクレームのようなことを述べている情報をいくつか見たが、さもありなんという感じだ。
今年は昨年に較べると多少は改善されているようだが、それにしても UTMF なんかと較べると(参加したわけではないが)、あまりにも手薄と言わざるを得ない。参加費(100 マイルが2万5千円)も決して安くはないと思う。
松原湖の第2関門まではおおむねロードの下りで 13km とのこと。本降りの雨で、このエイドでリタイアを決めた人が何人かテントで休んでいる。関門まであと2時間ほど。何とか次の関門までは自分の脚で行こうと思って、暗闇の中を走り出した。
最初は確かに下りのロードだったが、ほどなくゆるい登りになる。しばらく登りが続くと、今度は未舗装になった。しかもいつ終わるのかと言いたくなるほど登りが続く。
もう関門通過はムリだと観念した。と同時に、止められる理由ができてほっとしたという気持ちもあった。もう少し先まで行きたい気持ちは残っているが、例え制限時間がはるかに緩かったとしても、完走は到底ムリだろう。
ようやく車道に出たかと思ったが、すぐにまた山道の下りに入る。雨で滑りやすく、しかも大きな石がごろごろしていて、非常に歩きにくい。前も後ろも誰もおらず、まぎらわしい横道のあるところに印のランプが点いていて、一瞬どちらがルートなのかわからなくなる。
道の形状からしてこちらだろうと思った方をしばらく行くと、印のテープが現れてほっとする。
一体、このどこが『ロード主体』なのだろうか。さっきのエイドを過ぎてから序盤はロードだったが、距離的には未舗装の方がはるかに長い。一体どういうつもりであんないい加減な情報を言っているのかと腹立たしくなってくる。
ようやく街並みに下りてきたが、もう普通の道でもスロージョグが精一杯。それも歩きを交互に繰り返しながらだ。
関門時刻を 30 分ほど過ぎて、ようやく第2関門に到着した。97km を走って(歩いて?)来たが、その満足感はまったく無かった。走れはしないけれど、体力的にはまだ若干の余裕はあった。ここまでやってきたことの実際の中身に較べると、悲しいほどむなしい気分だった。
バスでゴール地点に戻ったのは午前2時くらい。こんな時間に戻ってくることは想定していなかったので、車に戻っても補給食の残りくらいしかなく、しかもここにいてゴールを案内する声を聞くのはたまらないので、早々に帰路について、途中のコンビニで食べ物とビールを買い、諏訪湖のサービスエリアを寂しい一人宴会をやることにした。